医療機関における同意書の法的効力とは
医療機関において患者に手術を施す際、医師としては患者に対して事前に同意書にサインを求めるような場合があります。
この同意書は法的にどんな意味を持っているのでしょうか。
この記事では、同意書はどのような法的効力を持つのか、また当該法的効力はどのような場合に発生するのかについて解説していきます。
同意書の法的効力
医療における同意書とは、患者が医師の行う手術を受けることについて、承諾する意思を示した文書のことを指します。
手術においては、体にメスを入れたり、注射器を刺したりといった身体への侵襲行為が行われるため、通常であれば刑事上傷害罪に問われるような行為を伴うといえます。
もっとも、このような行為が制限されると医療行為に不都合が生じます。
同意書は手術について患者の同意を得ることで、このような行為に適法性を付与する法的効力を持つのです。
また、民事上も身体への侵襲は不法行為を構成するため、同意なくこれを行うと患者から損害賠償請求をされてしまう危険性があります。
同意書には患者にこの損害賠償請求権を放棄させ、医師が賠償責任を負うリスクなく手術を行えるようにする法的効力もあります。
法的効力はどのような場合に発生するのか
もっとも、同意書にサインや押印をしたからといって、いかなる場合でも医師の責任が免除されるわけではありません。
責任が免除されるのは、医師が手術内容についての説明義務を果たし、現在の医療水準に従った手術を過失なく行った場合のみです。
ここでいう説明義務の程度は、診療当時の医療水準に基づいたものです。
また、重篤な危険性のある手術においては、そうでない手術に比べてより詳しい説明が求められるほか、代替手段があるような場合にはそれについても説明して患者の判断を尊重することになります。
このような十分な説明を受けたうえでの合意すなわちインフォームドコンセントが、同意書において必要になります。
説明義務は口頭で果たしてもよいものとされていますが、同意書に手術の説明を記録しておくと説明義務を果たした証拠になります。
書面の形で残しておくことによって、医師は患者から損害が発生した後になって同意の有無や説明内容について争われるような事態を防ぐことができます。
また、上記のような同意を保証するという面から考えると、同意書は患者の自己決定権を守るものとしても機能しています。
そのため、患者が同意書にサインするか否かをしっかりとした説明を受けたうえでよく考えてから決められるように、医師としては詳細な説明を行うべきだといえるでしょう。
説明義務違反や過失がなかったような場合でも、例外的に同意が無効になる場合もあります。
それは、いかなる事故に関しても一切の異議を申し立てない旨を述べるような、あらかじめ一切の損害賠償請求権を放棄する同意です。
いくら同意があるといっても、医師が一切の責任を負わないというのは社会通念上さすがにやりすぎであるため、このような同意は公序良俗に違反しているということができ、民法90条違反によって無効とされることが考えられます。
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大学卒業後、薬剤師資格を取得し、大手製薬会社に入社。
その後弁護士となり、MLIP経営法律事務所にて執務。
一般社団法人日本健康寿命延伸協会・理事
薬剤師・医療経営士2級
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